両親のことは何も知らない・・

まだ両親が元気の時の話です。月に1回は実家に帰っていて、そのある日のことです。2階で寝ているとまだ朝早い時間に1階から母が騒いでいる声が聞こえました。普段おとなしい母が大騒ぎをしているのです。驚いて何事かと慌てて1階におりていくと、母が父に対して、家を出ていけとか、馬鹿野郎とか言いながら父を蹴ったり叩いたり。とにかく止めなければと、間にはいったはいいが、今度は私を蹴ったり叩いたり。小さい母の蹴りもパンチもまるで子供のようでまったく痛くもありませんでしたが、今まで一度でも私に怒ったこともないし、ましてや暴力などすることがない母がまるで何かに憑りつかれたように騒いでいるのです。なだめようとしても聞き入れてくれません。なにがおきているのかまったく理解ができませんでした。父は怒ることもなく、ただ収まるのを待っているだけでした。後で父に聞けば、1年ほど前から時々人が変わったように急に暴力的になるそうで、それでもしばらくすれば落ち着くらしいのです。それから母の様子をみるように毎週実家に顔をだすようにしました。原因はさっぱりわかりません。ただ、昔の楽しいことを思い出してくれれば元に戻ると思い、アルバムを出して一緒に見たり、一緒に外出したり、書いたこともない手紙を書いてみたりもしましたが、それでもやはり時々暴れるのが治りません。その凶変ぶりは本当に何かに憑りつかれているように見えました。神だの悪魔だの信用しないほうでしたが、この時ばかりは、本当に何か憑りついているのではと思い、お祓いにまでつれていきましたが、悪くなる一方です。このままでは、父が倒れてしまうのではと心配になりました。そして父に言いました。お母さんは何かおかしい、もう離れて暮らしたほうがいいと。少しやつれた父はすぐに同意してくれるかと思ったのですが、まったく違いました。急に涙を流し、お母さんと一緒にいたいんだと言いました。何も言えなくなりました。父の涙を初めてみたのですから。そして、私は父のことなど何も分かっていなかったことに気が付きました。もちろん、母のことすらです。父、母、二人にしかわからないきっといろいろなことがあったのだろう・・。母は本当に父に出て行ったもらいたいと思っているのだろうか・・。その後、父は倒れて入院しました。母はレビー小体型認知症の病気が判明しました。当時まだ認知症という言葉が一般的ではなかったころです。