投稿者「sitofu」のアーカイブ

水の事故で思い出す

ニュースで水の事故をみるといつも彼のことを思い出す。彼と出会ったのは大学に入学して最初の教室だった。席が名前順だったからたまたま私の隣に座っていた。人見知りだった私に最初に声をかけてくれたのも彼だった。一浪していた彼はとても落ち着いて穏やかで、何より経験豊かで面倒見がよかった。私がバイトをしたことがないことを知ると、彼が長くやっているバイトに誘ってくれた。バイトリーダーでシフトも自由に組める。大学でもバイトでも大抵は一緒に行動していた。遊ぶときもいつも声をかけてくれる。1年もすると彼の友達であるバイトの先輩と3人で遊ぶことが多くなった。その日もどこかに泳ぎに行こうかと誘われて、夜に彼たちと合流した。とりあえず遠い県に向かうことになったが、その場所は、今まで車で行ったことがない気が遠くなるくらいの距離だった。高速にのりしばらくすると私は眠りに落ちた。目的とした県についたのはもう朝だった。それからどこか泳げそうなとことはないかと探し、そのまま海に向かった。天気は曇りで少しだけ波が荒れている感じだったが、それでも、もう海には多くの人がいて、夏のにぎやかさがそこにはあった。しばらく泳いで遊んでいると先輩が沖のテトラポットに行こうかと言ってきた。テトラポットはそんなに距離はないし、何人も人がいて面白そうだった。先輩と彼について泳いでいくと、そこが深いことに気がついた。

一緒についていきたいが、泳ぎは自信がない。ちょっとした距離だから泳げないことはないし、一人で戻っても面白くはない。少し迷ったが、戻ることにした。小さいときによく父が川や海に連れてってくれたがいつも浮き輪は離さないように言われていた。浮き輪がないことが少し不安だった。岸につくと、一人の若い女性が血相を変えて走ってきた。あそこで溺れてませんでしたか?そういってテトラポットの方を指さした。私の泳ぎが相当ひどかったんだと思い、恥ずかしく照れ笑いしながらいいえと答えると、また一目散にどこかに走っていった。彼女も勘違いして恥ずかしかったのだろうと思いながら海辺に座って彼らが戻ってくるのを待つことにした。なかなか戻ってこない。だいぶん楽しんでるのだろう。どれだけまっただろうか、先輩が走ってきて、あいつがいない、それだけ言ってまたどこかへ走っていった。はぐれたのだろう、下手に動くと私もはぐれてしまうと思い、またそこで待つことにした。しばらくすると、少し離れた場所で人混みができ始めた。誰かがおぼれたらしい。そんな声が聞こえるとようやく何が起きたのかを悟った。立ち上がり、そこへ向かおうとしたが途中で足が止まった。そこへ行ってどうするのか、何ができるのか、意味があるのか・・いや、何よりもそれを目にするのが怖かった。今でも時々思う。もし、あの時テトラポットに向かっていたら・・、もしあの時、後ろで彼が溺れていることに気が付いていたら・・。毎日ニュースで流れる事故、誰も自分ごととは思っていない。ましてや、明日生きていないなど考えることもない。でもたぶん、それは誰でもすぐ近くにあるに違いない。